
利用者の家族への気配り
家族の気持ちを理解する
Oさんは、75歳の女性です。2年ほど前に交通事故に遭い、骨折したのをきっかけ に、ほとんどベッドにふせています。このまま寝たきりにさせるべきではないと考えたホームヘルパーは、Oさんの気持ちを聞きながら、歩行訓練を始めました。ところが、家族からは、「歩行訓練なんかやめてください」と言われてしまいました。「どうしてですか」聞いてみると、「痴呆症のおばあさんにウロウロされたら困る」とか「ずっと寝ていてくれたほうが楽でいい」という返事が返ってきました。その後も何度か家族の方に「Oさんは歩きたいと言ってますよ」「本人が歩きたいと言っているのですから歩行訓練をやりましょう」と説得しましたが、受け入れてもらえませんでした。
<適切な言葉かけの例>
寝たきりになるということは、Oさんにとってもつらいことですし、ご家族にかかる負担も大きくなります。私も精一杯協力しますので、Oさんとみなさんにとって一番よい方法を考えましょう。
このような場合では、急がず、焦らず、ゆっくりと時間をかけてご家族の気持ちを変えていくことが大切です。「ウロウロされたら困る」などという言葉は、老いや障害を受け入れることができず、介護をすることに対して拒否的な気持ちを表しています。老いや障害に少しずつ前向きに取り組もうとするまでにはさまざまな葛藤があるのですから、今すぐ「歩行訓練をやりましょう」と言っても、家族にはすぐに受け入れられないこともあるのです。なので、家族の気持ちを理解し、時間をかけてじっくり説明していくことが大切です。また、さまざまな在宅介護サービスや介護教室などを紹介して、それを利用することによって、一人で力みがちな介護者が「一人ではない」「自分と同じ悩み、境遇を抱えている人がたくさんいる」と理解を広げていくことができるようになります。このように、物理的、精神的な支援をいろいろな角度から行い、介護者の気持ちにゆとりをもたせていくことが大切です。
コミュニケーションをとる
Pさんは85歳の女性です。数年前から痴呆症状がでて、失禁も始まっていましたが、入浴を拒むので、臭いが立ちこめ、家族から非難を浴びるようになってしまっていました。息子夫婦が介護をしていますが、嫁は腰を痛めてしまい、介護ができない状態で、息子がすべてを引き受けているような状態でした。ホームヘルパーが訪問し、「お風呂に入らないから変な臭いがしますよ」と言うと、「私はどこも悪いところはありません。あなたに差し上げるお金は何もありませんので、どうぞお帰りください」と言われてしまいました。
<適切な言葉かけの例>
「Pさん、ことらの暖かい部屋に来ませんか」と声をかけ、しばらく顔を見つめていると、笑顔が出てきましたので、そっと手を出しながら、「Pさん、爪でも切りましょうね」と言ってコミュニケーションをとるように心がけました。
息子は、臭いPさんをなんとかしようと必死になっていました。しかし、Pさんにとって、いくら息子とはいえ男性に自分の下着を替えさせるなんてとんでもないことでした。 ホームヘルパーが2回目の訪問の時、熱いタオルをPさんに渡すと「気持ちがいい」という反応があったので、足浴までやってみました。決して無理強いすることなく、コミュニケーションをとりながらの前進です。焦らず、ゆっくりと納得してもらいながら入浴にまで至ることが大切です。